働くこと社会や制度のこと

面白くて怖い地政学

お正月から佐藤優『現代の地政学』(晶文社2016)を読みました。 ロシアやヨーロッパで身につけた国際感覚で捉えた近未来の情勢予測が惜しげもなく書かれている本で、その鋭い分析力、根拠となる情報の厚さに圧倒されました。地政学という言葉は最近急激に使…

要望と政策の距離感、共感と賛成の距離感

参議院の選挙が終わりました。選挙公報を眺めているとさまざまな「公約」が並んでいますが、いつもながらかなり荒唐無稽なテーマを掲げている候補者があります。 それをどうやって実現するのか、実現したときのデメリットが検証され、それを乗り越える覚悟が…

お金の質を問う

昨日は経済効果について「真」とか「偽り」とかいう言葉を使いましたが、そう簡単に二分できるものじゃないかな、と、思いなおしています。質のいいものと悪いものがあって、スペクトラム的に連続している。中間的な質のものがたくさんあって、その中に特に…

半健康の経済効果

先日取り上げた『不定愁訴の診断と治療 よりよい臨床のための新しい指針』(Francis Creed他)は、欧州での研究成果がたくさん掲載されていたのですが、その中で医療費や社会的損失との関わりも論じられていました。このことについて訳者の太田大介(聖路加国…

水面の天井を越える

2015年1月1日です。世間にはガラスの天井ということばがあるらしいです。キャリアを積もうと社会でがんばってきた女性たちの間では良く知られた言葉のようですが、私はそのようなものとは縁のない世界に生きてきました。ガラスの天井とは、「資質又は成果に…

働けない女性の行方を憂う

女性が働くということに関して、以前から気になっていたことがあります。ずばり、働けない状態の女性についてです。働けない男性がいたら、世の中はいろいろな配慮や援助をするし、制度も整っています。 病気で働けないのなら治そうとするし、障害で働けない…

世の中と歯車がかみ合う感覚

アルバイトを始めました。ほんの少しですが、初めてのお給料が口座に振り込まれました。もちろん嬉しいのだけれど、ヘンな気分です。なかなかうまく表現できないし伝わらないとは思うのですが、私はただ専業主婦だから働いていなかったというのではなくて、…

勇気のホルモンX

実は、いま、就職活動もしています。息子のことじゃなくて、私です。 アルバイトを探しています。結婚退職してから二十年あまり、病気もしたしいろんな面で自信をなくしていましたから、 社会に出るのはとても不安があります。でも、このまま一生を終わりた…

人が人を所有することがない国、日本

夫が私よりちょっと年上ということもあって、同居した義父母は大正生まれと昭和のはじめの生まれです。ふたりとも、とても働き者で、元気でした。休日とか平日とか、そういう区別はなくて、いつもパタパタと動いていて、いつ休養しているのだろうと不思議で…

日本の高校はほんとうにこれでいいのか

会社から自己啓発として資格取得を命じられ、プライベートな時間が制約されるという話があります。こんな方法で人間を拘束することができるんですね。学校から大量の宿題が出されて、自由な時間がなくなるというのに似ています。 ついでに言えば、正規の授業…

自由な時間を奪い情報を遮断すると何が起こるのか

私の知人はがん闘病を経てやっと就職した仕事先を先日辞めました。 年棒制で残業手当が一切つかない中で、ほとんど休暇がとれず、眠っている時間以外はほとんど仕事に追われ、家の中を片付ける時間もなかったといいます。自分で使い途を決めることができる自…

ブラック企業と管理教育のどこが似ているのか

大学卒業を控えた息子がひとりいるので、巷の労働環境のことを知りたいと思いました。でもこの本で読む限り、これは私たちが若い頃に学校で行われていたことと本質的に同じだと感じました。手口はだんだん巧妙にはなってきています。『ブラック企業経営者の…

「しごと」と胆力と創造の泉

「しごと」と私が言っているのは、賃金をもらえるかどうかとは関係なく、もっと広い意味でのことです。その人に期待されている社会での役割を果たしていること。たとえば、秘密を守るとか、集合時間に遅れないとか、そういうことも含めてです。頼まれたこと…

不登校も自殺も社会問題だという視点を捨てないで

私は2002年ごろから6年ほど精神科領域の薬の世話になっていました。 「うつは心の風邪」というキャンペーンが張られ、うつ病の認知度が上がり、街に精神科クリニックの看板が増えてきた時期と重なります。その時期の精神科医療について書いた本を二冊読みま…

消費のまちと産み出す力(2)

消費のまちには、子どもと専業主婦と高齢者しかいない、そこには生産という営みがない、という話でしたが、これには多少注釈が必要だと思います。専業主婦も高齢者も、もともとはただの消費者ではなかったと考えられるからです。 表の経済活動に現れてこない…

消費のまちと産み出す力(1)

神戸の街は一見復興したように見えていますが、小さな町工場はほとんど再建されていないときいています。古くから続いてきた産業が消えて、ただの住宅街になってしまいました。 これは地震のせいというより、時代の流れが加速されただけなのかもしれません。…

科学的根拠という言葉の意味

ところで、話を統計学に戻します。医学の世界でエビデンス(科学的根拠)として信頼されているのは、ランダム化実験(RCT)であるという話がでてきました(→記事10/13)。また、この言葉は、統計学の一般的な信頼性の話の中でも出てきました(→記事11/06)。…

漢方薬にはエビデンスがないと言われる理由

「標準治療」という言葉を検索してみたら、風邪症候群の標準治療についてまとめたページを見つけました。急性上気道感染症 治療法ガイドライン http://www.ebm.jp/disease/breath/01jokido/guide.htmlこれを見て、ああなるほど、と、思い当たることがありま…

薬をやめるための患者学

私は数年間精神科領域の薬を飲んでいましたが、すっかりやめることができました。今は漢方薬とビタミン剤で体調を整えています。薬、とくに西洋の薬はほとんど、症状に対して使われるものが多いですよね。 頭痛薬も咳止め薬も、症状がごまかされるだけで病気…

モノは勝手に生み出されてこない

私は学生の頃まで、工業製品というのは工場で自動的に大量生産されているから、人の手はあまりかからないのだという感覚を持っていました。社会の教科書には「オートメーション」によって機械化され、労働は単純化され、「人間疎外」が起こったなどと書かれ…