近代的なものを相対化する

発達性トラウマで説明できるストレス性の病

以前紹介したポリヴェーガル理論に関して、『レジリエンスを育む』(キャシー・L・ケイン/ステファン・J・テレール、花丘ちぐさ・浅井咲子(訳)、岩崎学術出版社2019年)を読みました。 レジリエンスを育む―ポリヴェーガル理論による発達性トラウマの治癒 …

ポリヴェーガル理論でさまざまな謎が解ける

ポリヴェーガル理論という名前を私は今回のCDブックで初めて知った、と思ったのですが、よくよく調べてみると、これまで買って持っていた本の中でも引用されていたり紹介されていたりしました。でも、提唱者であるポージェス博士の著書の邦訳は最近出たこ…

心理学の歴史を知ると見えてくる愛着理論の真実

ややこしい話が続いて恐縮ですが、わかりにくいけど大事なこともあると思うので書かせてくださいね。 ジョン・ボウルビィの「愛着」理論というのがありますよね。このブログでも愛着障害というカテゴリーを設けていますが、この「愛着」の英語は attachment …

ヨーロッパ思想の「心身二元論」への誤解を解く

このところ「半健康」「不定愁訴」「慢性疼痛」「慢性疲労」などに関することをいろいろ調べていて、ひと月ほどでかなりいろんなことがわかってきました。ひとつ重大なことは、この病への理解が、いわゆる「心身二元論」の議論に引っかかってくるということ…

不定愁訴を医学的に説明する

このところ連続して、苦しい症状が長期間続くのに身体を調べても悪いとことがほどんど見つからない病気について書いています。 一つ前に紹介した本のタイトルに出てきた「不定愁訴」という言葉ですが、字義どおりに解釈すると、いろいろグズグズ言う、という…

心身二元論の落とし穴(2)

身体じゅう調べてもたいして悪いところが見つからないのに、それに比べて症状が大げさな患者をひとまとめにしてFSS(機能性身体症候群)、ということだと、良く似た病気がありました。 身体表現性障害からだに現れるこころの病気。精神科で扱う疾患の名前…

心身二元論の落とし穴(1)

一つ前の記事で半健康について研究したいと書き、宣言したからにはと勢いをつけて論文検索をやってみました。以前よりスムーズにいくつかの論文にアクセスすることができ、わりとすぐにこのキーワードにたどりつきました。 機能性身体症候群 Functional Soma…

「知識人」という言葉について

「知識人」という言葉にこだわって書いてみたいと思います。私は30年ちょっと前に九州の故郷を出て東京の大学に進みました。親類縁者には大学に行ったものはほとんどおらず、「大学に行く」ということに大きな期待と不安を抱えていたのを思い出します。 大学…

ヨーロッパの知識人を身近に感じる本

この本も以前から読みたいと思っていました。『歴史が後ずさりするとき 熱い戦争とメディア』(ウンベルト・エーコ、岩波書店2013年)イタリアの哲学者が書いたもので、さぞ難しい言葉で書かれているに違いないと覚悟して手に取りましたが、ウイットに富んだ…

歴史を俯瞰する目

この夏に読んだ本のことを、まとめて書きたいと思います。個別指導塾でアルバイト講師をやっているのですが、社会の夏期講習に合わせて読んだ本がこれ。 『日本史の考え方 河合塾イシカワの東大合格講座』(石川晶康、講談社現代新書2004年)受験生向けのよ…

そもそも西洋はずっと東洋より進んでいたのか

「アメリカに追いつき追い越せ」というのは、私たちは子どものときによく聞かされた言葉です。アメリカは進んだ国だというイメージをことごとく刷り込まれました。20代の頃、サンフランシスコでゴールデンゲートブリッジを見て、これが作られた年号を確かめ…

資本主義が生んだ、法人というモンスター

この本をじっくり読んでいました。『資本主義という謎「成長なき時代」をどう生きるか』(水野和夫、大澤真幸、NHK出版新書2013)読みながら、これまでずっと考えてきたこと、世の中を見回しながら考えてきたこと、等をつらつらと振りかえっていました。プロ…

ファイナル・コモン・パスウエイという発想で変わるこころと身体の関係

脳の炎症、と聞いて思い出した本があります。『「脳の炎症」を防げば、うつは治せる』(最上悠、永岡書店2011)以前この本を読んだときは、書いてあることが医学研究の流れの中でどこまで本流になっていけるのか、ただの珍説なのか、私には判断がつきません…

基本的自尊感情を取り戻す戦い

一つ前の記事は戦後史のことを書きました。改めて占領ということを考えると、国民全体の自尊感情の問題なんだろうと、そう書いたのですが、ここで、基本的自尊感情と社会的自尊感情ということを思い出しました。以前のブログ『雨の日は本を広げて』のときに…

占領を知らない子どもたち。でした

放送大学の講義は4月〜7月の前期と9月〜1月の後期に分かれています。お休みの間にまとめて現代史(戦後史)の本を読んでいます。原爆や空襲の話は結構聞かされきたと思うのですが、占領期のことをあまり知りません。GHQがいた時代って、どんな感じだった…

特攻隊の基地が宮崎にもあった

私の祖父は、戦時中空港で働いていました。飛行機の整備をしていたと聞いています。本人は私が高校生のとき亡くなったこともあり、詳しい話を直接きいたことはありません。空襲が激しくなって母の家族が近郊の農家の離れに疎開したときも、祖父はその疎開先…

消費のまちと産み出す力(2)

消費のまちには、子どもと専業主婦と高齢者しかいない、そこには生産という営みがない、という話でしたが、これには多少注釈が必要だと思います。専業主婦も高齢者も、もともとはただの消費者ではなかったと考えられるからです。 表の経済活動に現れてこない…

消費のまちと産み出す力(1)

神戸の街は一見復興したように見えていますが、小さな町工場はほとんど再建されていないときいています。古くから続いてきた産業が消えて、ただの住宅街になってしまいました。 これは地震のせいというより、時代の流れが加速されただけなのかもしれません。…

縁という発想と南方曼荼羅

ところで、縁というのは仏教の言葉で、日本人にはなじみ深いものですよね。一期一会という言葉を座右の銘にしている人も多いし、偶然の出会いには何らかの深い意味があると考え大事にする人が一定数います。 先日の、二階建ての哲学の話にもどると、 この偶…

二階建ての哲学という問題提起をしてみます

漢方に限らず、日本にはそれなりに体系化された伝統療法がありますよね。おばあちゃんの知恵として家庭で言い伝えられてきたようなものを民間療法と呼ぶならば、その範疇を超えて、専門家の養成方法が確立され、伝書が読み継がれ、手法が確立しているものが…

漢方薬にはエビデンスがないといわれる理由〜のつづき

1ヶ月ほど前の、漢方薬のエビデンスの話に戻ります。先の記事(→記事10/13)では、RCTは薬剤単独で評価するから、生薬を組み合わせる漢方では相性が悪いというようなニュアンスのことを書きましたが、実際は、漢方薬は○○湯とか△△散といった生薬の組み合わせ…

科学的根拠という言葉の意味

ところで、話を統計学に戻します。医学の世界でエビデンス(科学的根拠)として信頼されているのは、ランダム化実験(RCT)であるという話がでてきました(→記事10/13)。また、この言葉は、統計学の一般的な信頼性の話の中でも出てきました(→記事11/06)。…

「からだ」からこころを整えるというアプローチは古くて新しい

私がボディワークにかかわるようになったきっかけは、ある集会で「発達障害にはフェルデンクライスがいいらしい」という話をきいたことでした。発達障害に関わらず、うつ状態など、こころの不調には身体を整えるといいというのは、日本人ならある程度受け入…

昭和10年ごろまでの日本を知っていますか

私の父と母はちょうど戦争が激しくなってきた頃の生まれで、小学校は戦後教育を初めて受けた、ぐらいの年代です。子どもの頃、父母が語ってくれる<昔の日本>のイメージは、戦後の貧しい時代でした。配給があったり、バラックがあったり、やみ市があったり…