漢方薬にはエビデンスがないといわれる理由〜のつづき

1ヶ月ほど前の、漢方薬エビデンスの話に戻ります。

先の記事(→記事10/13)では、RCTは薬剤単独で評価するから、生薬を組み合わせる漢方では相性が悪いというようなニュアンスのことを書きましたが、実際は、漢方薬は○○湯とか△△散といった生薬の組み合わせのパッケージになっているので、パッケージを丸ごとひとつの薬として評価するというやり方で少しずつすすんでいるらしいです。

一つ前の記事に書いたように、体内でどう効くとかそういうことはしっかり解明されていなくても、実際患者に効くかどうかを実験すれば、<科学的根拠>は得られるわけです。

それはそうとして、漢方にはまた別の、難しい問題があるようです。

○○湯は適応症として××病と○×病に効果がある、といったぐあいに<科学的に>証明され、現在数十種類の漢方薬が健康保険でも認められていますが、西洋医学式の診断方法で決めた病名を基準にすると、漢方は低いエビデンスしか得られないというんですね。

西洋医がすすめる漢方 (新潮選書)『西洋医がすすめる漢方』(新見正則、新潮選書)にそのあたりの事情が書かれていました。この本の著者はオクスフォードで博士号を取り、のちに漢方を使うようになった医師ですが、漢方の場合は、漢方薬が効きそうだという人を分類する方法が数値化できないので、低いエビデンスしか得られないということを書いています(pp.39-40)。

私の聞きかじりの知識でも、漢方は同じ病名がつく患者でも別の処方をすることがあることは知っています。体型や顔色、脈などを手がかりに体質を見極め、その人の状態に合った処方があるんですよね。漢方的には多種多様な体質の人間の同じ病名に対して臨床試験をしても、効かない人が混じっているから数値として出てこない。

漢方の方法論は長い歴史の中で洗練されていて、見方を変えれば西洋医学式の病名のつけ方が大雑把過ぎるのだとも言えると思うのですが、日本らしい繊細な経験知を含むものを西洋式なものさしで測れないからといって認められないというのはなんとも腑に落ちない話です。

明治時代、政府は西洋医学を重んじ漢方医を認めなかったということがこの本にも書いてありました(p.70)。加えて、2009年に民主党政権事業仕分け漢方薬を保健医療から外そうとしたことが書かれていました(pp.70-71)。漢方と西洋医学は得意分野が違うので上手に使い分ければ健康保険の財政にも良い影響があるんじゃないかと思うのですが、あまり理解されていないんですよね。

漢方に限らず、効く人には効くけど、効かない人には効かないという薬や治療法はいろいろあって、科学的エビデンスが得にくいという共通の問題を抱えているようです。エビデンスがないとか低いとか言われても、その意味をしっかり考えてみる必要があるように思います。