自閉症スペクトラムへの素朴な謎に答える本(2)〜語用論の障害は自閉症だけじゃない〜

前回にひきつづき、『自閉症という謎に迫る 研究最前線報告 (小学館新書)』からの話題です。

やっと書いてくれた、と、嬉しかったのが、語用論のことでした。

言葉を字義通りに受け取り、文脈から意味づけることができない。話し手の意図を読み取ったり、会話に協力したりできない。これは語用論の障害としてまとめることができるのですが、

これは、自閉症スペクトラムに特徴的ではあるけれど、自閉症に特有のものではないのだということが、この本に書いてありました。

われわれの業界でも語用論の障害が自閉症の専売特許だと誤解している人が少なくないが、とんでもない話だ。不慣れな外国語コミュニケーションでは終始起こる。うつ病認知症、知的障害、高次脳機能障害、特異的言語障害学習障害ADHD、右半球障害、失語症聴覚障害などの場合にも生じる。(p.33)

私が精神科のお薬を飲んでいた当時、他人とコミュニケーションをとることはとても負担でした。息子も不登校になったばかりの時期、精神的にかなり追い込まれていたと思います。そんな時期にはおかしなコミュニケーションの行き違いがたくさん起きました。言葉のやりとりだけを取り出せば、それは語用論の間違いということになります。
でも、それは一時的に起こった現象であって、生まれつきのものではありませんでした。

発達障害バブルの時期には、ちょっとした行き違いが起こると相手をアスペルガー症候群と決めつけることがよくありました。ラベル付けされ自信をなくすと、本当にうまくコミュニケーションできなくなってしまう現象もあったと思います。語用論の間違いはその証拠にされてしまいやすかったのではないでしょうか。

じっさい、専門家と名乗る人たちが、そのような語用論の間違いを手がかりにして発達障害を見分けようとしておられたように思います。たくさんのまがい物の発達障害者が生み出されてしまったのではないでしょうか。

私はブログの中で、新型うつ病と大人の発達障害が地続きな感じがあるということを書いたことがありますが、今でもその考えは変わっていません。語用論の障害がうつ病で起こるという知見はそれを裏付けるものだと思います。彼らは回復する可能性が高いにもかかわらず、生まれつきの脳障害のようなイメージを植えつけられてそれを字義通りに受け取り苦しんでいるように私には見えます。

語用論の障害は自閉症の専売特許ではない。多くの人に知ってほしい事実です。
コミュニケーションは相手と自分との間に起こることであり、行き違いの原因を相手の資質だけに被せるのは慎重にしなければならないです。
私の周りでも、以前あの人もアスペ?と感じた人が次々に大丈夫な感じになっています。つまり、あの人がアスペと感じたのは、私の方のコミュニケーション不全のせいだったということらしいです。