ファイナル・コモン・パスウエイという発想で変わるこころと身体の関係

脳の炎症、と聞いて思い出した本があります。

「脳の炎症」を防げば、うつは治せる『「脳の炎症」を防げば、うつは治せる』(最上悠、永岡書店2011)以前この本を読んだときは、書いてあることが医学研究の流れの中でどこまで本流になっていけるのか、ただの珍説なのか、私には判断がつきませんでした。欧米では当たり前、などと漠然と外国全体を十把ひとからげに引き合いに出されるとなんとなくマユツバな印象があって、一読して放ってあった本です。

理研の発表と照らし合わせると、どうも同じ流れのように思います。脳が炎症を起こしている。そして、それは脳だけが閉じたものとして理解するのは間違っていて、全身を情報伝達のネットワークとして考えるべきだという考えです。脳/神経系、ホルモン系、免疫系などが相互に作用しあっていることを、この本では、ファイナル・コモン・パスウエイという名前で説明しています。

「頭のてっぺんからつま先まで、ぜんぶ心」(p.38)という表現が出てきますが、ここには精神と身体の分離というものはもうありません。私たちの心は、神経やホルモン、免疫などといつも共にあると考えられているわけです。

もし、これがほんとうに、珍説ではなくて、科学の本流として受けいれられていくのだとすれば、深い意味で画期的なことだろうと思います。

 こころ というものが、身体という物質的なものとは分離した形でとられらるのではなく、身体のシステムとしての動的な働きと連関した形で捉えられるからです。

精神科の門をくぐると、そこでは聴診器を当てられることも脈をとられることもありません。今までの医学では、こころの病を診るのに身体的なチェックは不要であると考えられていたことを端的に現していると思います。その源流には、西洋において、こころが身体と分離して考えられていたことがあるのだろうと思います。

西洋において。

そして、その西洋において、この分離を超えていく試みが始まっているのだともいえます。「欧米で当たり前」と言っているのは、理研の研究を診る限り、最先端の研究者の間では周知されてきているという意味なのだろうかと理解しています。

この本は、素人向けの実用書として書かれていて、後半は全身のバランスを整えることでうつを克服する多くのヒントが書かれています。これが全く目新しいことがないのも不思議な話です。食事法、サプリメント、運動、認知行動療法、どれもどこかで聞いたような話なので、以前読んだときは全くピンと来なかったのですが、結局、これらがほんとうに効くという根拠が、脳の炎症という仮説から導き出されるということなのだろうと思います。おそらく、これまでの医学の常識を叩き込まれた人ほど、運動やサプリの効果を受けいれることができず、素人のほうがずっと柔らかい頭でいろいろ試しながら健康管理しているのではないかと思います。

この本に沿って考えると、脳が炎症を起こしているということよりも、免疫やホルモン、神経系などがバランスをくずしていることのほうが大きな問題のように思います。心の問題を解いていく際に、身体も含めた人間全体を見ていくことが、おそらく数年のうちに普通になっていくのではないかという予感がしています。