精神科の診察室と、カウンセリング室はどのくらい違うのか

放送大学大学院の前期試験が終わりました(私は選科生として学んでいます)。

今期は、『精神医学特論』と『臨床心理面接特論』を並行して勉強していましたが、二つ同時に学んだことで、対比してしまうというか、考えさせられることがありました。

以前に『セラピスト』(最相葉月、新潮社)を紹介しましたが、この本では臨床心理士精神科医師が同じようにセラピストとして書かれていたように思います。カウンセリングであったり絵を描いたり箱庭を作ったりといったプロセスを使って心の状態を変えていく方法は、医師が行う場合もあり、臨床心理士が行う場合もあります。おおかたの人たちはこの二つを区別して考えたりしていないだろう、と、思います。

私もそうでした。
嫌な考えが次々と浮かんで苦しくなって、この話をちゃんと聞いてもらったら整理できるかもしれない、という状態になったとき、精神科に行ったらゆったりと私の話を聞いてもらえるだろうと期待してクリニックの門をたたいた覚えがあります。
診察室に入ると、誰にも言えなかった思いをそこで吐き出しました。
精神科というのはそういう場所である、と、思い込んでいました。

今回学んだ限り、私のその考えは間違っていたようです。

精神科の先生は、まず第一に、診断をつけることを目的に話を聞いておられるようなのですよね。そして、今の状態に、どの薬が合うのかを考える。
話をしっかり聞くことの精神療法的な効果はもちろんあるけれど、それは、味方になってくれる人がいることで気分が落ち着く程度という感じです。

臨床心理士の場合はこれが全く違います。初回面接のときから、その人との深い関係づくりを考えているし、話を聴くことそのものの治療効果をしっかり認識しています。
おかしな話や倫理的に危ない話が出てきても、否定せず、その人のつらさを受け止める。

同じ話をしても、精神科医臨床心理士では受け止め方が全然違うということなんですよね。
精神科クリニックでおかしな話をすると、妄想?神経症?パーソナリティは?などと、判断の材料とされてしまうということなんですよね。

精神科の診察室で、自分を丸ごと受け止めてもらえると期待してはいけなかったのかもしれないです。私がしゃべっている間、医師はだまってカルテにその話を書きとめ、最後に、処方が伝えられていました。診断と処方のために聞いているのだとわかっていたら、もう少し、常識的な枠を守った話もできたと思います。苦い思いがあります。この気持ちを何というんでしょうか。

数年ののちに、私は自分から申し出てカウンセリングを受けるようになりますが、そのときも、精神科医とカウンセラーは似た仕事なので、医師にカウンセラーの紹介を頼むのは失礼なのではないかと遠慮していました。でも、これは全くの思い過ごしで、実際は、診察と投薬は医師、話は臨床心理士が聞くという分業体制で、ずっと治療を続けることができました。

『セラピスト』に出てくる中井久夫氏のように、自らじっくり精神療法をおこなう精神科医はそう多くはないと思います。精神科を受診しようと思ったときは、どんなつもりで医師が話を聞いているのか、患者として観察する必要があるように思います。話を聞いてもらいたいのであれば、最初からカウンセラーのところに行ったほうがいい場合もあるのかもしれないです。