歴史を俯瞰する目

この夏に読んだ本のことを、まとめて書きたいと思います。

個別指導塾でアルバイト講師をやっているのですが、社会の夏期講習に合わせて読んだ本がこれ。
日本史の考え方 河合塾イシカワの東大合格講座!『日本史の考え方 河合塾イシカワの東大合格講座』(石川晶康、講談社現代新書2004年)受験生向けのようなタイトルですがおそらくそうではなくて、私のような東大コンプレックスを持つ大人が手にとる本なのでしょう、日本を考える上での一つの視点を述べたもので興味深い内容でした。
飛鳥時代から奈良時代にかけて日本は急速に大陸の文化を取り入れ、律令制仏教によって国内を統一しようとしたことは中学の歴史で習ったとおりなのですが、そのとき古代の日本人たちが何を思っていたかということを考えると現代が見えてくるのです。中国大陸が統一され唐という大国が西に東に勢力を伸ばしてくる、日本はその存立をかけて外国の先進的な文化を取り入れ周辺の地域を従え「小さな中華」になろうとしたのと同じことが、明治維新のときにそれが西欧の脅威に対して繰り返されたというんですね。天武天皇明治天皇を対比し、漢文を英語に対比したとき、憲法や今の外交問題などを考えるのにも大いに役に立つ視点が古代史の中にあることに気がつくわけです。

次に読んだのがこれです。
古代史の謎は「海路」で解ける 卑弥呼や「倭の五王」の海に漕ぎ出す (PHP新書)『古代史の謎は「海路」で解ける』(長野正孝、PHP新書)面白い人がいるものだなと思いました。古文書や考古資料ばかり眺めている研究者ではなくて、カヌーやヨットなど、手で繰る舟のことをよく知っている方が書いています。古代人が持っていた技術と地理的な条件から推理すると、弥生時代から奈良時代にかけての物資の流れが見えてくるというのです。この時代は朝鮮半島から鉄を買い付けており、対馬海峡を渡った鉄は瀬戸内海ではなく日本海の海岸伝いに船で運ばれ、川を上り、川幅が狭くなるとその舟を陸に上げ担いだり曳いたりして畿内に運び込まれたのだというのがこの本の説です。この時代のことはわからないことが多く諸説あるのだろうとは思いますが、のちの時代に開発された技術を知らなかった古代人の立場にたちその気持ちになって考えてみたというところが説得力があると思いました。
自分が当たり前に知っていることをまだ知らない状態の人の立場にたってものを考えるのは非常に難しいことです。

その後、前から読みたいと思っていたこの本を読みました。
銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎『銃・病原菌・鉄』(ジャレット・ダイヤモンド、草思社2000年)ピューリッツアー賞をとり話題になっていた本です。人類の歴史、特に言葉や風習など文化の盛衰について新しい見方を提示していて知的興奮を呼び覚ます本でした。地球上には農耕、牧畜などが生まれ鉄器を持つようになった地域と、最近まで石器時代のままとどまっていた地域があり、植民地時代を経て現代の不均衡のおおもとの原因になっているように思われますが、その違いはそこに住む人びとの性質によるものではなく、居住環境の条件によるものだということをさまざまな実例から検証していきます。石器時代のままの地域の文化は相対的に弱く鉄を持った文化に滅ぼされていく運命をたどってきたのは確かですが、そこへ民族や文化の優劣などの価値判断を持ち込まない視点が新しく、これまで私たちが「学問」と呼んできたものが、西欧的な価値観に色づけられたある種偏ったものであったことに気づかされました。

私は大学で社会科学系の学部で学んだにも関わらず歴史には苦手意識がありました。歴史を俯瞰する視点、全体の構図が欲しいという思いはずっとあったように思います。今学ぶ歴史は面白いし、歴史を学ばないで現代の問題を論じることはできないと思うようになりました。
もっと早く出会いたかったと思うけれど、やはり今だから出会えるものなのだろうと思います。