心身二元論の落とし穴(1)

一つ前の記事で半健康について研究したいと書き、宣言したからにはと勢いをつけて論文検索をやってみました。以前よりスムーズにいくつかの論文にアクセスすることができ、わりとすぐにこのキーワードにたどりつきました。

 機能性身体症候群 Functional Somatic Syndromes :FSS

機能性というのは器質性に対する言葉です。器質性の疾患が、身体になんらかの病変が確認されるような病気のことを指すのに対し、機能性の疾患というのは、身体の病変はないけれど、身体のはたらき方に異常がおこり症状がでる病気のことを指す、と、だいたいこういう理解でいいと思います。

本題に戻って、機能性身体症候群です。

医療教育情報センターのサイトによると、「適切な診察や検査を行っても、器質的疾患(病理学的所見の認められる疾患)の存在を明確に説明できない病態」と定義されていて、次のようなものが列挙されています。

消化器系では過敏性腸症候群(IBS)、呼吸器系では過換気症候群、神経系では緊張型頭痛、リウマチ系では線維筋痛症(FM)、感染症では慢性疲労症候群CFS)、アレルギー系では多種化学物質過敏症(MCS)、婦人科系では月経前症候群、歯科では顎関節症

なぜこれらがひとまとめにされるのかその理由も列挙してありました。大雑把にまとめればこれら別々の専門領域の疾患であるにもかかわらず同じ人間が重複してかかっていることが多く、同じ治療に反応することが多いので、何か同じ原因が関わっているのではという見立てが可能だということだと思います。神経・内分泌・ホルモンなどの異常が想定されているようです。

そうそう、こういう病気です。半健康に陥ってしまうのは。
どこの病院にいっても、調べてもたいした病気はないと言われ、様子を見ましょうとか、ストレスですとか言われ、時間とお金をかけた割にはなんの解決にもならず、診断名がついたとしても特効薬があるわけでもなく、だるさや痛みとだらだらと付き合いながら、とりあえず生計を立てたり家族の面倒を見たりしながら、もっと健康だったら違う人生があったのではないかと夕暮れの空を見上げる。。。

ところで、医療教育情報センターの定義に「病理学的所見」という用語が出てきますが、この病理学という学問の扱う領域というのが、死体解剖そのものなんですよね。西洋医学そのものが、死体を見てわかることを基礎においていて、これを「病理学」と名づけているわけです。病気の理屈、病気を分析することの基礎が死んだ身体にある。

神経・内分泌・ホルモンなどの生きた人間のダイナミクスについては、死体を見てもあまりわからないだろうということはなんとなく想像できるのですが、解剖して出てこないものの位置づけが低いというか、まだわかっていないことが多いというか、これから発展することが期待されるというか、そういう分野に関わるのが、機能性身体症候群ということになります。

機能性身体症候群について、出典は書きませんが、ある論文で「確認できる身体の異常に比して強い身体症状を訴えるものの総称」という言い方をされていて、この表現には多少驚きました。「どっこも悪いところはないよー、気のせいじゃない?」なんて言われて傷ついたことのある方たくさんいらっしゃると思いますが、医師の側から見ればこう見えていて普通なんだ、と社会勉強になりました。
器質性、機能性という区別じたいが、ホルモンや神経や免疫機構などのダイナミックな反応を知らなかった昔に決められた区別なのですし、もうそろそろ卒業する時期に来ているのかもしれないわけで、それについても議論が起こっているようです。


参考リンク:医療教育情報センター「機能性身体症候群」
 http://www.c-mei.jp/BackNum/067r.htm