感覚統合という見方で発達障害をとらえてみると

本棚の整理をしていましたらこの本を見つけました。

『これでわかる「気になる子」の育て方』(木村順監修、成美堂出版2010年)

これでわかる 「気になる子」の育て方

今読み返すとうーんなるほど、実感があります。この本でグレーゾーンと呼ばれている子どもたちのことです。明らかに発達障害とまではいえないがちょっとそれらしい特徴を備えている子どもたち。私が教えている塾にもたくさんいるように思います。

作業療法士の立場から書かれた本なので、感覚統合という見方で子どもたちを見ています。感覚というと視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚が思い浮かぶかと思いますが、そのほかに平衡感覚や、筋肉や関節の動きを感知する感覚など無意識に使っている感覚があって、それらがバラバラではなくバランスよく連携して機能することを感覚統合といいます。

知的障害をともなった自閉症などの子どもに行われることの多い「療育」では、この感覚統合の発達を促すために器械運動や遊びを取り入れています。特に障害を持たない子どもに関しては、ごく普通の「遊び」のなかで感覚統合の発達がすすんできたはずなのですが、それが最近の子どもたちの生活が変わってきたことで、うまくいっていないように見える、ということのようなのです。

本来ならじゅうぶんに発達できる素質を持って生まれてきた子どもが、その素質をうまく開花できない生活条件になっている。その結果、発達障害によく似た状態像の子ども達が増えてきている。そのような子どものことを、グレーゾーンと呼んでいるのですよね。

「生まれつきの障害」というのとは別な話という風に受け取れますが、ばっと割り切れるものではなく、やはり素質的に弱い部分もあるのかもしれません。でも、育つ条件が変われば状態像はかなり変わってくるはずだという見方は、作業療法士として感覚統合の現場に携わってきて、重い障害のあるケースにも対応してきたからこそ言えることなのだろうと思います。

グレーゾーンの特徴として挙げられている内容はかなり多岐にわたります。落ち着きのなさ、集中力のなさ、まなざしが合いにくい、遊び方がパターン的、家具やドアによく体をぶつける、キャッチボールやボール蹴りが苦手、着替えに時間がかかる、椅子にきちんと座れない、音や場所を不安がったり嫌がったりする、字の大きさが整わない。。。などなど、ひとつひとつは小さい子どもなら以前から散見された特徴のようにも思えますが、最近はそのような特徴を持った子どもの数が多く、成長をただ見守るだけではなかなか改善していかないということなのだろうと思います。

この本で指摘されているのは、子どもが育っていく環境が昔と違っていることです。戸外でゆったり遊ぶ時間が少ないことや、年齢差のある子ども集団で遊ぶ経験がないことなどがあげられています。これで全て説明がつくわけではないですが、なにかしらの環境の変化によって、子どもの育ちが変化し、結果、脳のアンバランスを調整し適切に成長していくことが困難になっているということは言えるでしょう。

図解を使って項目だててわかりやすく論じられている本です。症例別に細かく分けてどのような対処をしていけば成長を促していけるのか詳しく出ています。どんなことが感覚統合につながっているのかを知るのにも役立ちます。叱り方などの注意点も書かれています。おっちょこちょい、早合点、忘れっぽい、など性格だから仕方ないと思われていたことも、実は「発達障害っぽさ」とつながる要素だったことに気がつけば、「発達障害」は特別なことではなく、私たちの誰の中にも少しずつある脳のアンバランスなのだという新しい見え方にたどりつきます。

子どもの発達障害について書いた本ですが、大人の発達障害についても示唆を与えてくれる本だと思いました。