ポリヴェーガル理論でさまざまな謎が解ける

ポリヴェーガル理論という名前を私は今回のCDブックで初めて知った、と思ったのですが、よくよく調べてみると、これまで買って持っていた本の中でも引用されていたり紹介されていたりしました。でも、提唱者であるポージェス博士の著書の邦訳は最近出たこの本が初めてのようです。早速取り寄せて読んでみました。

ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」

ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」

  • 作者: ステファン・W・ポージェス,花丘ちぐさ
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2018/11/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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一つ前の記事では、迷走神経が2系統あるという理論、という書き方をしましたが、捉え方としては、自律神経が3系統あるという理論、と言ったほうがいいかもしれないです。人間が外界の刺激に対して無意識に反応するパターンを自律神経の働きで説明しています。

応用して聴覚過敏を軽減する治療法を編み出すなどさまざまな研究がされているようですが、この理論の応用範囲はとても広く、人間理解の根本に関わってくるのではないかと思います。

 まず、すごいと思ったのが、トラウマや幼少期に形成される愛着パターンをこの理論で整然と説明できることです。解離という現象やパーソナリティ障害に見られる情緒の不安定さもよく説明できています。つまり、私たちが感情とか情緒とか気分とか呼んでいるこころの動きの基盤に自律神経の働きが深く関わっているということです。社会性と呼んでいる他人とのかかわりの発達にも関わってきます。自閉症や発達障害の新しい理解にもつながります。

こんなに優れた理論なのにメジャーな扱いを受けていないように思うのは、斬新過ぎるからかもしれません。私たちのこころが身体の生理学的な部分に無意識に支配されているというのですから、心と身体を分けて考える二元論的な思考にはなじまないし、フロイトなど伝統的な無意識の議論ともかなり隔たりがあります。難しい本をたくさん読んできた人ほど困ってしまうような理論かもしれません。

でも、実際にトラウマの治療に携わってきた人にとっては見てきたことをよく説明できる理論であり、心身症的なトラブルを抱える人たちにとっては回復へのよりどころとなる理論になります。臨床の現場から支持者が増えてきているという印象を受けます。

教科書などに載って多くの人がこの理論を知るようになると、人間の理解、いや、人生の理解が変わってくると思います。何のために人と関わるのか、生きるのが辛いと感じるのは何故なのか、どうすれば幸福になれるのか、といった人生の問いに、この理論が直接答えを与えてくれるような気がするからです。そういう問いはこれまでは文系の課題とされ理系の科学とは縁遠いと思われていましたから、その意味でも斬新です。

この本は対談形式になっていて入門者にはわかりやすいと感じました。本格的な内容の著書が翻訳になって出てきてほしいと思います。知ったばかりなのにかなりの入れ込みようです。