でたらめ から へたくそ へ
50代半ばから修士論文に取り組んだ私の支えになった言葉です。『論文作成のためのパソコン入門』(宇多賢治郎、学文社2008年)にあったフレーズですが、ずっと心の中に響き続けていました。
この本はパソコンの初心者が論文を書くことを想定して文字入力からワード、エクセル、ネット検索の仕方などを丁寧に解説した本です。基本的なことと論文執筆に使えそうな機能とをまとめてあり、目次、索引なども充実しているので、特に最初の方で頼りにしました。脚注をつける、引用文献を並べる、など、論文作成でありがちなトピックに合わせてどの機能をどう使うかといったノウハウも載っています。
この本はパソコンのことだけでなくて、大学のゼミの参加のしかたやお作法なども丁寧に書いてあります。大学の新入生を想定して書かれていると思われますが、社会人学生にもありがたい内容でした。
そしてその中で、心に響いたのが、冒頭に書いたフレーズだったというわけです。
大学で指導を受けながら論文を書くという体験を通して、
「でたらめ から へたくそ にならなければならない。二つの違いは、何をしたら良いかを分かっているかどうかである」とあり、定義づけも載っています。
でたらめ:ルールや方法を知らないため、適切な行動がとれないこと
へたくそ:ルールや方法を理解しているが、未熟、経験不足からうまくできないこと
でたらめなのにへたくそだと勘違いして、時間が経てば上達するだろうと、でたらめを放置してはいけないと書いてあります。その通り。私は、論文とは何者かわからないまま数十年過ごしてきたことがずっと心に引っかかっていました。
今回は、それなりに論文らしいものに近づいたと思います。へたくそですが。
でたらめからへたくそになる、というのは、何を習うにしても初心者から初級者になるときに通るみちすじのような気もします。基本のルールや型を習い、下手なりにもその型に従って動けるようになるというのは、スポーツや料理、書道などの例を思い浮かべてみれば、どれにも当てはまります。そして、この本がすすめるのは、でたらめからへたくそになるために、二種類のお手本を参考にするということなのですが、これも応用が利きそうです。
「形式」のお手本:面白みは少ないが、基本の型を身に着けるために真似をする
「内容」のお手本:レベルの高い実績。遠い目標となる
シンプルだけれど、深いです。何を始めるにも、確かにこの二つが必要です。
パソコンの使いかたはOffice2007をもとにしているので、若干情報が古いものもあると思いますが、私は十分使えました。私のように、ゼミとは何か、輪読とは、レジュメとは、コメントとは、という説明にひとつひとつ納得したい向きにもおすすめです。