クールな議論のための統計学

この本を読んでいました。

統計学が最強の学問である統計学が最強の学問である』(西内啓、ダイヤモンド社)。書店でも人気で話題になっている本のようですが、確かに面白かったです。

私はとりあえず専門として臨床心理を学ぶにあたって統計学が必要だったわけですが、最近は多方面で統計学が必要とされる場面が増えているらしい空気は感じていました。

この本では、その「多方面で使われている統計学」の全体像を知ることができます。統計学の基本を貫く理論を学びつつ、各分野での使われ方、目的の違いを理解した上で資料を読みこなす力がついてきます。本を一冊読むだけで力がつくという感覚が確かにありました。

これまで何冊かの入門書を読んで統計学のごく初歩的な部分は知っていたのですが、何にどう使うのかという部分では漠然としていました。今後も引用する可能性があるのでそのまま抜き出しますが、統計学が使われている分野はおおきく6つあるとこの本では分類しています。

1.実態把握を行う社会調査法
2.原因究明のための疫学・生物統計学
3.抽象的なものを測定する心理統計学
4.機械的分類のためのデータマイニング
5.自然言語処理のためのテキストマイニング
6.演繹に関心をよせる計量経済学   (pp.205-206)

この本ではさらに、読者が統計資料を読みこなせるようになった後に、各種の研究論文を検索して議論の論拠とできるようになることを目指しています。インターネットを使えば英文や日本語での論文をキーワードから検索し探し当てることができる時代になっているわけで、そのやり方まで書いてあります。

社会人として何らかの決定をするために議論をする場面はたくさんありますが、個人的な感想や感覚を頼りにしていては誰の感覚が優れているかという話になってしまいます。前例に従っているだけとか空気を読みあっているだけとか押しの強いのが勝つとかそういう議論ではなくて、客観的なデータを前にクールに議論できるために、統計学の知識を共通に持っていることが必要だということ。そして、IT技術の発展によって資料を総覧することも、企業単位でデータを収集して解析することも可能な時代になってきていること。

統計資料は議論のためのエビデンス=証拠として有効なわけですが、そのエビデンスの高さに4階層あるということが紹介されています。これも参考にできそうなので抜き出しておきます。

(信頼度の低い順に)
1.専門家の意見・基礎実験
2.疫学・観察研究
3.ランダム化比較実験
4.メタアナリシス・系統的レビュー  (p.283の図表56より)

複数の研究をまとめて結局のところ何がいえるのか述べている論文がいちばん優れているということですが、この本そのものが、統計学というものの全体をまとめて結局何が大切なのかを述べたものだという感想を持ちました。

値打ちのある本だと思います。