この国は何を目指していくのかを考えるための本

放送大学の夏休みに、今年は、この本を読んでいました。

この国のかたち〈6〉 (1996)『この国のかたち一〜六』(司馬遼太郎文芸春秋1990〜1996、文庫化されています)私は歴史小説のファンではなく、この方の作品もほとんど読んでいないのですが、これは小説ではなくて、雑感をまとめたようなものです。当時の雑誌に連載されていたものということです。

当時。1986から1996までの間。
私が大学を出て東京で就職し、若い会社員として働き、今の夫に出会い結婚し、息子が生まれて子育てを始めた時期に相当します。

その頃、司馬遼太郎さんはこの文章をお書きになったんだなぁ、と感慨深く読ませていただきました。

この国というのはいうまでもなく、私たちが住んでいる日本のことを指しているのですが、中国や朝鮮半島の歴史も踏まえ、日本のさまざまな習慣やものの考え方がどのように出来上がってきたのか、それが現在にどのような影響を与えてきているのかを考察されています。

先の大戦で暴走したといわれる統帥権について、そのルーツを幕末のいきさつから考察されている部分や、日本の神道仏教について論じられている部分は印象に残りました。

司馬氏は戦時中は軍隊におられたのですが、当時の子供たちが受けた教育についてはあとから知ってその酷さに驚いたと書いておられます。そのことは私には新鮮に映りました。私たちは戦時中の教育を受けた世代とは接点があっても、その前の世代のことはよく知らないです。暗い戦争の時代の前に、どんな時代があったのか、その空気を知る人たちはすでにかなりの高齢になっていますね。。。

最近、ビジネスマン向けの歴史書が売られていたりするようですが、高校の歴史の教科書を読み返すだけでなく、この本のようなものの見方で歴史や文化の違いを考えてみると、理解が深まるように思います。神社や寺に行ったとき、知らない町へ行ったとき、これまでと別な見え方で見えてくる、それだけのインパクトがある本です。

1990年代の話に戻ります。
この頃、日本は戦後のスローガンだった「アメリカに追いつき、追い越せ」という目標を達成したかのように見えていました。とりあえず経済的には豊かになり、電化製品や自動車なども先進国なみのものが作れるようになり、次の目標を必要としていた時期です。

司馬遼太郎という作家が、あの時期に、日本の文化や歴史を整理するという作業をしてみたということは、これからこの国は何を目指すべきかということを考えておられたのかな、と思ったりもしました。

この国は、次の目標をまだきちんと見つけたわけではないように思いますし、この本はそのための資料として十分役に立つように思います。