精神科の薬の話が続いてすみません。もう少し続けさせてくださいね。
ベンゾジアゼピン系といわれている薬があります。抗不安剤や睡眠導入剤として精神科といわず、内科や歯科などでも処方されることがあるので、見たことがある人も多いはずです。
日本で発売されている商品名としては、ソラナックス、セルシン、ワイパックス、レキソタン、ハルシオン、マイスリーなどが相当します。
この薬はとてもよく効きます。不安がすーっと取れ、とりあえず眠ることもできます。
だからこそ、この薬に頼ることが習慣化するとやめられなくなるのですが、やめようとすると、いろいろな心身の症状に悩まされるようです。
違法なドラッグの離脱と同じです。
もし、間違って習慣化してしまったら、医師の指導のもと、きっちりと離脱していかなければならない、はずです。
そんなときに使える参考文書がインターネット上で公開されていました。
ベンゾジアゼピン − それはどのように作用し、離脱するにはどうすればよいか
(通称アシュトンマニュアル)www.benzo.org.uk/amisc/japan.pdf
英国で書かれたものです。
最後に載せられている翻訳者の辞や他の文献などを総合すると、現在の日本では離脱の指導をきっちりできる医師は限られているようです。習慣化して依存することの危険性を甘く見てだらだら処方し続けている医師もそれなりにいます。
アシュトンマニュアルを読んで気づくのは、ベンゾジアゼピンの危険性をただ訴える目的で書かれているものではないということです。抗不安剤、睡眠導入剤として効果的な薬だからこそ、必要なときに特効薬として使い、長期には使わないという使い分けをする、長期に使ったら安全なやりかたで薬を減らしていくというスタンスです。
ここには、以前とりあげた、価値の遠近法と同じ方略が見て取れるように思います。
1.この薬が絶対必要なとき
2.この薬を使ってもいいけど、使わなくても済むとき
3.端的にこの薬が必要ではないとき
4.この薬を使ってはいけないとき
この4種類を、見分けることができること。この使い分けの判断が、ある程度常識として人びとの間で一致すること。そのような社会であれば、処方した医師に相談しながら、薬を減らし、最終的に離脱していくことができるんだろうと思います。
日本でも、このような薬の長期使用を批判し活動している人たちはありますが、薬の危険性を訴え医学不要論を唱えるなどの極端に走られると、一般の市民としてはどちらについていったらいいのか困ってしまうんですよね。
価値の遠近法というのはすなわち教養である、という鷲田清一さんの言わんとすることがなんとなく見えてきたような気がします。私たちが住んでいる今の日本の社会では、他にもいろいろ、どっちについていいのかわからない、身を引き裂かれるような分裂を起こしているものがたくさんあるような気がします。