自閉症スペクトラムへの素朴な謎に答える本(3)〜遺伝する自閉症と遺伝だけでない自閉症がある〜

ひきつづき、『自閉症という謎に迫る 研究最前線報告 (小学館新書)』から。

以前のブログをやっていた中で、遺伝か環境かというのは、大きな謎でした。
でも、精神科領域の診断は見た目の症状や特徴によって判断(分類)されるものであって、どうやって病気になるかがきっちり解明されているものは少ないのだ、と、理解してから、私の中では多くの疑問が解けた感があります。

症状によって診断名がついているということは、たとえるならば、咳がでる患者を全て咳病と名づけるというような感じでしょうか。インフルエンザも肺がんも結核も花粉症も皆同じ診断名になってしまいます。

詳しく病理が解明されている他科の医学と精神科とでは、違う感覚で捉えなければならないということだろうと思います。


以前から、ときどき新聞記事などに自閉症遺伝子のことが出てきていたのですが、この本を読むと遺伝のことも整理して考えられるように思います。

症候性自閉症と非症候性自閉症という区別があるのだそうです。(p.100)

症候性自閉症というのは、メンデルの法則に従う単一遺伝子疾患で、完全に遺伝的なもの。
自閉症の症状を示す患者全体の10〜20%を占めると書いてありましたが、この全体というのはどこまでを指すのか私にはわかりません。ただ、遺伝とはっきりわかっている自閉症の人が一部存在するということです。
症候性自閉症には身体的な特徴や症状があって区別できるし、遺伝子の特徴も解明されてきているようです。
残りは非症候性自閉症とされ多因子遺伝と考えられているということですが、これは遺伝であって遺伝でない。高血圧や糖尿病やがんなどと同じように、遺伝の影響もあるけれど環境の要因もあるというあいまいさを含んでいます。

エピジェネティクスの考え方によると、子育て、化学物質、微生物を含むさまざまの環境因子が遺伝子の発現をオン・オフしていることや、妊娠中の母体のウイルス感染や免疫異常が胎児の脳に影響していることなど、新しい知見はどちらかというと、遺伝だけでは説明できない環境要因の関与を示唆しています。

先天的か後天的かといった二者択一的な問いかけ自体に無理がありそうです。(中略)育て方が原因でないにしても、育て方を軽視してよいことにはならないでしょう。(p.109)

そうすると、被虐待など愛着障害で出てくる自閉症様の症状についても、自閉症と完全に区別することはできなくなります。この本には、カリフォルニアのフリーウエイの近くに住んでいる母親から生まれた子どもの自閉症出現率が高いという研究結果(2011年)も紹介されています(p.46)。

どの程度遺伝で、どの程度環境なのかはわからないけれど、どちらも関係しているというのが今わかっていることのようなのです。

咳の原因がいろいろあるように、自閉症の原因は多様にあって、これらは将来、まったく別な名前の疾患として区別される時代が来るかもしれません。

とにかく今は、自閉症スペクトラムと診断されたからといって、生まれつきの遺伝病だからどちらの家系からだとか、子どもに遺伝するかとか、そういう悩みを深刻に持つ必要はあまりないのだろうと思います。